湊町さかた観光ガイドテキストブック 「ぐるっと、酒田 まちしるべ」

第三章 台町界隈
5.舞娘茶屋 雛蔵畫廊 相馬樓

相馬樓概要
 相馬樓は、江戸時代中期より料亭「相馬屋」として開業していた建物を手直し、新しい息吹を加えてオープンした観光施設です。
 酒田は西廻り航路の整備や、北前船の出入りによって繁盛しました。「西の堺、東の酒田」と言われる程、賑やかで富んでいました。「本間様にはおよびもせぬが、せめてなりたや殿様に」の戯歌も残る町で、殿様よりも商人の方が力を持っていました。その豪商達に愛され、料亭文化の頂点にあったのが「相馬屋」です。明治27年に大震災で母屋を焼失してしまいますが、直後に焼け残った蔵を取り囲むようにして回廊式の母屋が建てられ、酒田の大料亭としての歴史は続いていきました。しかし、格を重んじた「相馬屋」は、時代の流れに抗しきれず平成7年に廃業を余儀なくされました。平成8年11月、国の登録文化財建造物に指定されると、平成12年3月に観光施設として再出発しました。再出発の際に、泉椿魚先生のプロデュースを頂き、現在のように赤を基調とした「舞娘茶屋 雛蔵畫廊 相馬樓」という形になりました。舞娘さんの踊り・食事・建築・美術品など、見所満載の観光スポットです。(写真撮影は禁止)

①アプローチ
 港町の風情漂う舞娘坂に建つ相馬樓。かや葺きの門と朱色の塀がひときわ目を引きます。扇形の石畳が訪れる人を樓内へと誘います。(相馬樓のパンフレットから)

②玄関ホール
 玄関を入ると雛飾りを連想する丸い燭台と漆塗りの床、松竹梅と扇・鼓 をデザインした金箔のレリーフが、お客様をお迎えします。 (相馬樓のパンフレットから)
  本来、相馬屋は歴史を感じさせる重く枯れた印象の料亭でした。現在はお雛様と舞娘さんの融合施設「舞娘茶屋雛蔵畫廊」というサブタイトルもついている観光施設です。玄関をお雛様の雛壇に見立て、赤で飾られています。泉椿魚さん(いずみちんぎょ)がプロデュースしました。泉さんは、感性のおもむくまま、戯句・陶芸・絵画・漆芸などに才能を発揮され「戯遊詩画人」と言われています。奥二階の客間の襖絵に椿魚先生の魚と椿の絵が精根込めて画かれています。又、相馬樓雛という大きい内裏様とお雛様と三人官女の5体が展示されています。その部屋は古くかなり歪んでいますが、歪みを直すと館内全体にひずみがきてしまうということで、江戸の昔のまま、そのままの形で館を支えています。昔はここで結婚式が出来たり、法要が出来たり、会合をしたりというお金持ちのステータスの場でした。敷居が高いという言葉がありますが、まさに相馬屋は酒田の超一流の料亭でした。

③くつろぎ処
 鐵齋の絵画が飾られたくつろぎ処。竹林の水墨画の襖や陶製の引き手など凝った意匠を珈琲や抹茶を楽しみながら鑑賞できます。(相馬樓のパンフレットから)
  和尚様に合わせた釣り鐘型の火灯窓のあしらいがされています。法要では、和尚様専用のお部屋となり、一般の人との触れ合いは出来ませんでした。和紙で出来ている引き戸部分の建具は古いままですが、引き手はダメになってしまいました。九谷焼の北前船と方角を示した十二支の新しい引き手を入れています。襖の絵は、印はありませんが、椿魚先生の作品です。人生丸くという意味からか、丸い襖絵になっています。富岡鉄斎の絵は相馬屋の頃からありました。欅の一枚板の大テーブルは、この厚みでこの大きさです。相馬屋の頃は、ここに魯山人さんや横山大観さんの作品が無造作に飾られていました。こちらは衣紋掛けです。昭和時代に新しく付け直したものと聞いておりますが、明治時代は山高帽子やマントなどを掛けていたようです。あちこちに笹竹の彫り物が埋め込まれていますが、実は釘隠です。

⑥2階客間
 襖に描かれている抽象的な椿は、戯遊詩画人・泉椿魚氏の作品。明治時代の意匠と泉氏の美の融合をお楽しみ下さい。(相馬樓のパンフレットから)
 襖絵は泉椿魚先生の作品です。片面が椿、片面が魚、両方合わせて椿魚となるシャレた作品です。詩画人ですので詩も書いています。この椿の襖絵は、地色の白を残した状態で赤と緑を入れ、立体的に見える手法です。描かれた丸は人生丸くという意味で、無事飄々という文字も入っています。何ヶ月か泊まり込みをした先生の思いが入った作品です。椿魚先生は、日本列島縦断の途中、相馬樓を作り、北へ向かいました。とても朗らかな方だそうです。
 部屋の小タンスは、仙人と学者が焼き物で扉に描かれています。これは明治の文化の色合いで、学者は竹林、仙人は山に籠もり、人と交わらないという高貴なイメージを表現しています。北前船の絵皿は、北村隆さんが製作した北前船の九谷焼絵皿は、開樓の時に依頼した新しい作品です。あちこちに瓢箪が埋め込まれていますが、実は細工された「割れ隠し」です。お花はお部屋に合わせて草月流の先生が生けてくれています。

⑩蔵座敷
 料亭時代の面影を伝える静かで落ち着いた佇まいの蔵座敷です。(相馬樓のパンフレットから)
 一見さんを断る事はなかったようですが、本来の料亭遊びが出来るのは、上客の常連のお客様でした。上客は長い歴史を感じさせる建物の中を、奥の蔵座敷や檜の皮を編んだ網代天井のお部屋等、奥の方へ奥の方へと通され楽しみました。蔵座敷は、明治でも焼けずに残った江戸時代の部分だと言われています。修理は入っていますが、天井の低さにも時代を感じる部屋です。昔は上得意の大旦那さんでないと通されない部屋でした。この部屋の仲居さんも、お客様の事情を心得た超一流の特別な人でした。伊東深水の弟子の佐藤公紀の画が掛けてあります。天井は檜の網代天井です。サイズ的にも大きく立派なものです。ただ、虫も付きやすくて管理が大変だそうです。

⑨随所に光る大胆な意匠
 赤い毛氈が敷かれた樓内はガラスのレリーフなど随所に意匠が凝らされています。(相馬樓のパンフレットから)
 窓があった所に、ステンドグラスのガラス工芸品を入れた、モダンな明かり採りです。
 新しくなった数寄屋造りのお座敷ですが、間取りと置床だけはそのままです。昔の造りは面白く、部屋に二つ入り口がありました。上客の旦那衆が、会いたくない人に会わずに帰れるように、場の悪い人と鉢合わせしないように、逃げ道を作っていました。
 相馬屋は閉店しましたが、最後まで料亭の格を下げませんでした。平成に一万円から入れる時代もありましたが、それでも他の料亭に比べると格段に高いものでした。気軽に楽しめる馬亭という名の店が、今の竹久夢二美術館の場所に作られた頃もありました。

⑦雛の蔵
 3/1~4/3の期間は、相馬家に江戸時代から伝わる享保雛や次郎左右衛門雛など、たくさんのお雛さまが麗しい微笑みでお迎えします。写真は常設の現代雛です。(相馬樓のパンフレットから)
 雛の蔵は、建物全体の中枢部、大黒柱です。歪みも出ていますが、直すと建物のバランスが悪くなるそうです。江戸時代から残り、梁も古く、欅と杉が使われているそうです。椿魚先生的は開樓した時に、この蔵が建物の中心であったことから、古今雛を守り雛として置いたようです。大きく立派な古今雛は創作人形で新しいお雛様です。男雛と女雛の並べ方は、古来ながらの右に男雛、左に女雛にしています。
 昔は、土で作った素朴で愛らしい人形でした。酒田には鵜渡川原人形があります。誕生した子供の幸せを祈り、人形を作ったようです。鍋や釜を直す職人の鋳掛屋さんが副業として作っていた時もありました。展示されている土人形は、全国のものがあります。船の行き来で酒田に入った物もあるのかもしれません。

竹久夢二美術館
 館長は夢二さんのお孫さんの竹久みなみさんです。夢二は大正と昭和に3回酒田に来ています。相馬屋で絵画展を行っています。館長さんが提供してくださった夢二の写真も展示しています。モデルは、一番最初の妻のたまきさん、彦野さん、お葉さん。お葉さんが有名です。日和山公園に文学碑もあり、山王くらぶの茶室に滞在する等、酒田との関わりが強い人です。画家というより詩人の要素が強い人と言われています。

雅の視点 ⑧蔵画廊
 樓主・新田嘉一のコレクション展示。竹久夢二、富岡鐵齋や陶磁器など、一流の作品が圧倒的な迫力で見る人を魅了します。  (相馬樓のパンフレットから)

雅の視点 ⑤大広間
 市松模様の紅花染めの畳に彩られた2階の大広間では、あでやかな酒田舞娘の踊りを眺めながらお食事が楽しめます。(相馬樓のパンフレットから)
 明治26年、料亭相馬屋が全国に名前を知らしめるような出来事が起きました。相馬屋事件です。大豪商達は遊び尽き、この大広間で宮中風の新年会を開いたそうです。天皇、皇后、政府高官など扮し、現代版の仮装パーティです。外に漏れないようにして楽しんだはずなのに、漏れ聞こえてしまい、不敬罪という刑になってしまいました。牢屋に入れられた豪商の方達は、お酒を浸した凍み豆腐を重箱に入れて差し入れさせたという笑い話もあるようです。この大広間の畳は、紅花で赤く染め、繁盛の意味合いを込めて半畳畳を使っています。襖絵は、ここで踊る舞娘さんをモデルに描かれています。舞娘さんと一緒に撮影した吉永小百合さんのJRポスターや、綾瀬はるかさんの「ただいま、東北」の撮影もこの大広間で行われました。ここでは舞娘さんとの写真撮影も出来ます。

庄内おばこ
 おばこくるかと たんぼのはんづれまで 
 でてみたば コバエテ コバエテ
 おばこきもせで ようのないたんばこうりなど
 ふれてくる コバエテ コバエテ
 おばここころもち いけのはたの はすのはの 
 たまりみず コバエテ コバエテ 
 すこしさはるてと ころりころりやと
 そまおちる コバエテ コバエテ

酒田甚句
 日和山 沖に飛島 朝日に白帆 月も浮かるる 最上川 
 船はどんどん えらい景気 今町 船場町 高野の浜 
 毎晩お客は どんどんしゃんしゃん しゃん酒田は 良い港 繁盛じゃおまへんか

 海原や 仰ぐ鳥海 あの峰高し 間〈あい〉を流るる 最上川 
 船はどんどん えらい繁盛 さすが酒田は大港 
 千石万石 横づけだんよ ほんまに酒田はよい港 繁盛じゃおまへんか

 庄内の 酒田名物 何よと問えば お米にお酒に おばこ節 
 あらまぁ ほんに すてき港音頭で 大陽気 
 毎晩お客は どんどん シャンシャン シャン酒田は よい港 繁盛じゃおまへんか
 「相馬樓」は、異次元へのタイムスリップができる空間です。建物や調度品が放つ現代の赤の色彩と、所々に残る古き料亭の名残が不思議に調和され、舞娘さんの踊り、地唄さんの節回しと三味線の音は、現実を忘れさせてくれます。竹久夢二美術館、新田コレクション、お雛様などの見所があります。酒田の繁栄の時代、豪商が愛した建物と料亭文化に触れられる、何回でも訪れたい施設です。

* 聞き取り協力/平成25年7月11日 相馬樓職員・ 相馬樓のパンフレット・ 酒田市観光ガイド協会*

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