湊町さかた観光ガイドテキストブック 「ぐるっと、酒田 まちしるべ」

第四章 日和山公園界隈
4.酒田と「奥の細道」

 奥の細道は、「月日は百代の過客にして…」という序文から始まります。芭蕉と曾良は、1689年(元禄二)旧暦3月に江戸を発ち、日光、白河、松島、平泉を経て山形に入りました。立石寺、最上川、出羽三山を通り、6月10日に鶴岡に三泊しています。その後に内川・赤川・最上川と舟で下って酒田に入りました。
 
芭蕉坂
 昔、鶴岡と酒田は、赤川を走る日通し船で往来していました。旅人は御公儀御米置場(瑞賢倉)付近から上陸すると、この坂を歩き、鶴岡街道といわれる出町・六間小路を通って町へ出ました。俳聖芭蕉と曾良も、この坂を歩いて伊東不玉宅を訪れたと思われています。芭蕉が酒田に着いたのは、元禄二(1689)年、旧暦の6月13日(陽暦7月29日)の夕刻だったと言われています。平成15年に出版された「奥の細道特集」によれば、『酒田についた芭蕉は日和山公園下の船着き場で船をおり、今は芭蕉坂とも呼ばれる小さな坂道を上って、湊の守り神だった金比羅さんに詣でた。酒田で一番の名所とされる日和山公園の脇にありながら、かつて水運関係者の信仰を集めただろう金比羅神社が現在は荒れ放題なのは惜しまれる。神社を飾る彫刻は京から名工を集めて彫らせたという見事な出来映えである。夕闇が迫る中、芭蕉と曾良は教えられた不玉宅に着いた。不玉宅は本町という廻船問屋が並ぶ通りから少し奥まったところにあった。肝心の不玉は留守でやむなく二人は近くの旅籠に宿をとった』となっています。この坂が芭蕉坂と名付けられたのは最近のことです。しかし、芭蕉がこの坂を上ったことは間違いありません。

出町
 明暦二年の絵地図や天和三(1683)年の巡見使覚書によると、この辺りは猟師町とあります。元禄以降、船場町が栄えた頃に出町ができたとされます。出町は船で栄えた酒田の玄関口です。ここから秋田町に至る通りを鶴岡街道といい、鶴岡から赤川を下ってくる旅人で賑わいました。芭蕉と曾良もここを通ったといわれます。芭蕉坂からここに出て、金比羅さんにお参りしたりしてから、六間小路を通って伊東不玉の家を目指しました。
 ところが、当てにしていた不玉は留守でした。その一日目に宿泊した場所が、曾良日記にも記されていません。船に戻ったのか、留守の不玉宅にお願いしたのか、伝馬町付近の宿屋なのか、寸昌(さもり)という俳号を持つ柿崎孫兵衛の家なのかがわかっていません。
 芭蕉は、不玉宅に宿泊しながら、吹浦と象潟に3日行っています。それからまた酒田に滞在し、大山に向けて出発しました。

松尾芭蕉 句会の跡
 本町通りには芭蕉ゆかりの標柱が三ヶ所あります。伊東淵庵不玉宅跡、安種亭令道・寺島彦助宅跡、玉志近江屋三郎兵衛宅跡です。
○伊東不玉宅跡 「温海山や吹浦かけてゆふ涼」 芭蕉
   伊東不玉は医者で医号が淵庵、俳号不玉、本名玄順といいました。芭蕉が酒田滞在に宿泊した家です。不玉は「海松(みる)かる礒に畳む帆莚」と返句しています。不玉宅には大淀三千風という伊勢の俳人も訪れています。俳諧美濃派の開祖各務支考を迎え、酒田美濃派を開きました。妙法寺にお墓があります。
○寺島彦助宅跡 「暑き日を海に入たり最上川」 芭蕉
   酒田港の浦役人で、幕府米置場の管理をしていました。芭蕉は、不玉宅に泊まった翌日彦助宅安種亭で俳諧の興行をしています。始めは『涼しさを』と詠みましたが、「暑き日を」と改作しています。本町郵便局の向かい、コンビニエンスストアの前に標柱が立っています。
○近江屋三郎兵衛宅跡 「初真桑四にや断ん輪に切ん」 はせを
   酒田三十六人衆の子孫で俳諧を嗜み、自宅で酒田最後の即興の句会を催しています。随行した「曾良日記」によれば、6月23日に近江屋に招かれ即興の発句会を催したとあり、芭蕉が懐紙に残したと記述がありました。近江屋が酒田から引き揚げる時、本間家に懐紙を渡しました。今では本間美術館の宝物の一つとして「玉志亭唱和懐紙」は、大切に保管されています。荘内証券の前に標柱があります。
 日和山公園文学の散歩道には、芭蕉の句碑と芭蕉像が立っています。

大山へ出発
 旧暦の6月25日、大山に出発しました。その後、越後、北陸、山中温泉、福井、敦賀を経て、9月6日に「奥の細道」の終点、岐阜県大垣に入ります。「蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ」を結びの句として詠みました。それから「伊勢の遷宮をおがまんと、また船に乗り」出発しています。「奥の細道」紀行は、芭蕉忍者説、隠密説の謎が残されています。

 元禄7年10月12日、松尾芭蕉は大阪御堂筋、花屋仁左衛門の貸座敷にて息を引き取りました。その10月8日に詠んだ「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」が最後の句と言われています。

*聞き取り協力/平成25年6月12日 酒田市観光ガイド協会*

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